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大阪高等裁判所 昭和30年(う)1561号 判決

控訴人 検察官 井嶋磐根

被告人 三野勝 外一九名

弁護人 松川喜平 外一四名

検察官 臼田彦太郎

主文

原判決を破棄する。

被告人三野勝、同曾根由夫を各懲役六月に、被告人垣春蔵、同垣正一、同山本直七を各懲役四月に、被告人玉久保弘、同山下秀吉を各懲役三月に、被告人山川孝夫を懲役二月に、被告人下村平八、同中村春一、同菅京一、同菊川岩一、同川西重貞、同山下丈平、同進藤長一、同山中秋雄、同片山正雄を各罰金六、〇〇〇円に、被告人村上正治、同黒田茂与吉、同菊川政一を各罰金五、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納できないときは金二〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

被告人全員に対し、本裁判確定の日から二年間いずれもその刑の執行を猶予する。

訴訟費用中(一)原審証人川上忠雄、藤村一郎、桓猛、川上武夫、下地茂、当審証人川上武夫、川井彦蔵に支給の分は被告人川西重貞、村上正治、黒田茂与吉、菊川政一、山下丈平を除くその余の被告人らの連帯負担、(二)原審証人竹口としみ、竹口純太郎、平井亨、曾根敏治、桓本重治、玉久保栄太郎、川西治美、定森厳当審証人曾根敏治に支給の分は被告人山川孝夫、黒田茂与吉、菊川政一、山下丈平を除くその余の被告人らの連帯負担、(三)原審証人進藤茂夫、進藤茂、進藤やすの、森勝一、河上正澄、西木孝一、今村義弘、亀井允、今井正信、当審証人森勝一に支給の分は被告人山川孝夫、川西重貞、村上正治、山下丈平を除くその余の被告人らの連帯負担、(四)原審証人桓輝一、原田義雄、山本虎七、当審証人原口義雄に支給の分は被告人山川孝夫、川西重貞、村上正治、黒田茂与吉、菊川政一を除くその余の被告人らの連帯負担、(五)その余の原審及び当審証人に支給の分は被告人全員の連帯負担とする。

理由

検察官の控訴趣意について。

本件公訴事実は、兵庫県三原郡湊町里組山林管理組合は、里組区内にある山林の共有共同経営を目的とし、里組居住者(岡所部落を除く)の大部分一〇三戸をもつて組織されている任意組合で、被告人三野勝、同曽根由夫、同垣春蔵、同垣正一、同下村平八、同中村春一、同菅京一、同菊川岩一は同組合執行委員、被告人川西重貞、同山本直七、同村上正治、同進藤長一、同山川孝夫、同山中秋雄、同玉久保弘、同片山正雄、同山下秀吉は同組合の班長、被告人黒田茂与吉、同菊川政一、同山下丈平は同組合員であるが、同じ組合員である川上繁一、川上理一、竹口秀雄、垣長五郎、前田稔は組合からその所有山林に対する松茸採収権及び下刈権を、同組合に無償提供すべきことを要求されて応ぜず、そのため、昭和二五年一二月及び昭和二六年二月の二回にわたる組合の利益金分配を拒否されたので、同年五月八日同組合を相手方とし神戸地方裁判所洲本支部に配当金請求の訴を提起し、更に翌二七年九月一三日組合所有の山林一五町歩に対し仮処分の執行をしたので、これを知つた被告人らは憤慨し、対策を協議するため、同夜里組区内公会堂に執行委員、班長会議を開き、その席上被告人三野勝、同曽根由夫、同垣春蔵、同垣正一、同下村平八、同中村春一、同菅京一、同菊川岩一、同川西重貞、同山本直七、同村上正治、同進藤長一、同山川孝夫、同山中秋雄、同玉久保弘、同片山正雄、同山下秀吉は外数名の出席者と共に、「仮処分をした川上繁一等五名に対しては、今後女子供に至るまで、家族全員に対してものを言わないし、一切交際をしない、これに違反した組合員に対してはその責任を追及する、各委員、班長は隣保員と相談の上これを右五名に通告する」旨の共同絶交の申合せをし、もつて各委員、班長らはそれぞれ隣保員に相はかり、川上繁一ら五名に対し、右申し合わせ事項を通告することを謀議した上、

(一)  被告人垣春蔵、同山川孝夫は右謀議に基いて、外数名の所属隣保員同席の上、翌一四日夜同部落隣保集会所の地蔵堂に招致した川上繁一及び川上理一の両名に対し「今後女子供に至るまで、ものを言わないし、交際を遠慮させてもらう」と言つて、前記申し合わせにより共同して絶交する旨を通告し、

(二)  被告人川西重貞、同村上正治、同玉久保弘は、右謀議に基いて外数名の所属隣保員と相携えて、同日同部落竹口秀雄方に押しかけ留守中の同人の長男純太郎の妻としみに対し前同様の通告をして秀雄に伝達させ、

(三)  被告人山本直七、同黒田茂与吉、同菊川政一は、右謀議に基いて外数名の所属隣保員と相携えて、同月一五日夜、同部落前田稔方に押しかけ、同人に対し前同様の通告をし、

(四)  被告人垣正一、同山下丈平、同山下秀吉は、右謀議に基いて外数名の所属隣保員同席の上、同月一六日同部落の垣輝一方において、垣長五郎に対し、前同様の通告をし、

それぞれ右山林管理組合なる団体及び多数の威力を示し、共同して繁一ら五名の自由名誉に対し、害を加うべきことをもつて脅迫したというのである。

これに対して原判決の要旨は、(一)一定の地域において集団生活を営み、相互依存している場合に、(1) 正当の事由がないのに(2) 集団の一人もしくは一部の人に対し他の全員もしくは大部分の人が共同絶交の申合せ、もしくは決議をし(3) そのことを相手方に通告することによつて犯罪性(脅迫罪)をもつものとし、(二)昭和二七年九月一三日夜、里組区内の公会堂で、公訴事実に主張されているような原由により、里組山林管理組合の執行委員、班長会議が開かれ、その席上川上繁一ら五名とは交際はできないなどと言つた者があつたことから、話がその方に傾き、各隣保に帰つて隣保員と相談し、五人とは女、子供に至るまで交際を遠慮させてもらうということに賛成を得た上で、右五名のいる各隣保では、それぞれの隣保員である五名にそのことを告げるという漠然とした話ができたが、それは強制的なものではなく、部落もしくは組合の意思として申し合わせ又は決議が行われたとは認められない。(三)右会合以後は、川上繁一ら五名のいない各隣保では、同人らに対する共同絶交について役員らから隣保員に対し指示があつたとか、隣保員が寄り合つてその相談をしたと認められる証拠はなく、又五名のいる各隣保ではそれぞれ絶交についてなんらかの相談が行われたように推認されるが、これは各隣保としての絶交であつて組合員全体としての絶交ではない。(四)川上繁一ら五名に対する通告も各隣保としての絶交の趣旨であつて、組合の役員会義の決議に基いて、組合としての共同絶交の趣旨ではなく、このように隣近所一〇軒位の者の間で共同絶交を通告したとしても、個人間の絶交の通告が罪とならないと同様になんら犯罪性を帯びるものではない。

ということに帰着する。

そこで原審及び当審における証拠調の結果を総合考察してみると、

(一)  兵庫県三原郡湊町里組(現在同郡西淡町大字湊里)吹上・下の二部落に分かれ、更に上部落は空所部落と岡所部落に、下部落は九部落に分かれており、右空所部落以下各部落は隣保ともいい隣保長を置き、湊町における集団社会生活の最下部組織を成し、この組織は第二次世界戦争中から存在したものであるが、現在の区域、その所属人員は必ずしもそのままではないこと、湊町里組山林管理組合は岡所部落を除く他の一〇部落内の居住者の大部分である一〇三名をもつて組織し、組合員の福利を増進するため、里組区内にある組合員共有の山林を管理経営することを目的とし、役員として各一〇名の執行委員及び部落班長を置き、執行委員中から委員長一名及び会計二名を互選し、又班長は右一〇部落から各一名を選出し、部落員会の決議を執行委員会に反映する様努め、執行委員会の決議事項を部落員に報告する義務を負うものと定められでいること、本件発生当時は被告人三野勝、同曽根由夫、同垣春蔵、同垣正一、同下村平八、同中村春一、同菅京一及び同菊川岩一はいずれも執行委員をまた被告人山川孝夫、同山中秋雄、同片山正雄、同山下秀吉、同進藤長一、同玉久保弘、同山本直七は各部落班長を勤めており、その他の被告人は同組合員であつたこと(公訴事実中の被告人川西重貞及び同村上正治が各部落班長であつたことを認められる証拠はない)昭和二五年一二月頃の組合総会で、二町歩以上の自作山林を所有する組合員は、その山林の下草及び松茸の採取権を組合に対し、無償提供すべき旨が決議され、これに該当する組合員中川上繁一、川上理一、竹口秀雄、垣長五郎及前田稔の五名は、この決議に従わなかつたため、同年一二月及び翌二六年二月に行われた利益金及び家庭用薪炭用材の分配に際し、分配から除外されたので、同人らは同年五月神戸地方裁判所洲本支部に対し組合を相手方として、配当金等請求の訴を提起し、その訴訟係属中の昭和二七年九月一二日、同町里組小字深谷所在の組合員共有の山林地上の松茸及び下草中右五名の持分に応ずる分の処分を禁止する旨の仮処分命令を得、翌一三日その執行をしたので、被告人らを含む組合員らはこれに驚き且つ憤慨し、同夜その対策を協議するため、里組所在の公会堂で、同組合の執行委員及び班長による会議が開かれたこと、同会議には被告人三野勝、同曽根由夫、同垣春蔵、同垣正一、同下村平八、同中村春一、同菅京一、同菊川岩一は執行委員として、また被告人山中秋雄、同片山正雄、同山下秀吉、同進藤長一、同玉久保弘、同山本直七は各部落班長として参集し、その外部落班長であつた菅由吉、川野利夫及び同じく部落班長であつた川野金一を代理してその息川野計郎が出席したこと(公訴事実中被告人川西重貞、村上正治及び山川孝夫が出席したという事実はこれを確認するに足る証拠はない)右会議は被告人三野勝が議長となつて議が進められ、出席者のある者から川上繁一ら五名及びその家庭に対しては交際を絶つべき旨の発言があり、大多数がこれに賛同し一、二の反対の趣旨を述べる者があつたが積極的な主張ではなく、被告人三野勝及び同曽根由夫はこもごも被告人山川孝夫の母山川良枝から聞知した、ある地主の不当処置に対抗して小作争議を起した村民が、その地主一家との共同絶交を強行してその要求を認めさせ、地主の処置を取消させたという隣村にあつた実例を述べ、結局組合員は川上繁一ら五名の処置に対する報復として同人ら及びその家族達とは共同して絶交すること、各役員はその部落に帰つて組合具にこのことを伝え、その同意を得た上、右五名のいる部落では同人らに対し共同絶交を通告すべきこと、通告は役員又は部落班員全部で行うべくそのいずれにするかは各部落で取り決めることに意見が一致したことが認められ、この認定に反する各証拠は信用性が乏しいものと断定することができるのである。

(二)  そして右五名の中(イ)川上繁一及び川上理一の両名は、いずれも空所部落(上一隣保)に所属し、被告人山川孝夫が班長を勤め、班員中被告人垣春蔵が執行委員を勤めていたのであるが、右会議の行われた翌一四日夕刻、班員が同所の地蔵堂に参集した際に、被告人山川孝夫は繁一、理一の両名に対し、山の件で同人ら及びその家族と、隣保員だけでなく組合員全部は交際を絶つべき旨を通告し、被告人垣春蔵はこのことは組合で決まつたことで、そむくと組合から除名される旨を付言し、他の者もこれに和し、反対をとなえる者はなかつたこと、地蔵堂における参集は被告人垣春蔵と同山川孝夫らの相談によつて決められたこと、(ロ)竹口秀雄は中オ部落(第八隣保)に属し、被告人川西重貞及び同村上正治も同所に属し、班長は被告人玉久保弘が勤めていたが、前同日竹口秀雄方附近路上に、被告人玉久保弘、同川西重貞及び同村上正治の外同部落居住の組合員約四名が集まつて、竹口秀雄ら家族に対し共同して絶交することを相談した上、同道して同人方へ行き、被告人川西重貞が右秀雄の息純太郎の妻竹口としみに対し、以後同人及びその家族と隣保の交際を絶つ旨を告知し、その家族に伝達するよう依頼し、その後帰宅した秀雄に対しその旨を伝達させたこと (ハ)前田稔は地蔵部落(第一隣保)に属し、被告人山本直七が同部落班長を勤め、被告人黒田茂与吉及び同菊川政一は同所に属する組合員であるが、同月一五日被告人山本直七の指示により、同所所在の地蔵堂に、被告人山本直七、同黒田茂与吉、同菊川政一の外同所居住の組合員約八名が集まり、前田稔ら家族に対する共同絶交について協議して全員賛同の上、同道して前田稔方へ行き、被告人山本直七は同所で同人に対し、深谷の差押の件について、同人及び家族とは隣保の交際を絶つ旨を通告したこと、(ニ)垣長五郎は山の口部落(第六隣保)に属し当時被告人山下秀吉が班長を勤め、被告人垣正一、同山下丈平は同部落に居住する組合員で、被告人垣正一は執行委員をしていたのであるが、同月一六日同部落に住む垣輝一方に、部落員共有の籾摺機の掃除のために被告人山下秀吉、同山下丈平、同垣正一の外同所居住の組合員垣輝一、原田義雄、山本虎七及び垣長五郎が集まつた際、被告人山下丈平及び同垣正一がこもごも垣長五郎に対し、他の隣保はものをいわぬことにしたので、うちの隣保も矢張りものをいわぬことにする等言明して、同隣保内の共同の絶交を通告したこと、垣輝一方に参集したものは、被告人山下秀吉の指示によるもので、籾摺機掃除の機会を利用して、共同絶交の通告をするためであつたこと、参集した者は事前にこれを予知していたこと、(ホ)隣保の交際を絶つとは、右五名と同一部落(又は隣保)に属する組合員らと右五名及びその家族との交際を絶ち、同人らをその部落(又は隣保)における協同生活圏内から除外することを意味していること、そして右各通告後は右五名及びその家族に対しては、その所属隣保の組合員のみならず、その他の組合員との交際関係が従前のように円満に行われなくなつたこと、(へ)右通告はいずれも隣保員らにより共同して行われたのであるが、その用語及び態度は微温的で公訴事実主張のように、里組山林管理組合という団体及び多衆の威力を示すというようなものではなかつたことが認められる。

さて一定地域の居住者が集団社会を形成し、朝夕寒暑の挨拶をかわし、吉凶互いに慶弔し、相互依存の協同生活を営むことは、人間本来の常態ということができるが、他人と交際すると否とは個人の自由に属し、従来結んできた交際を絶つことを決意し、これを相手方に通告したからといつて、それだけで違法行為として刑事責任を問われることは決してない。しかしながら、その地域における多数者が結束して、特定の一人又は数人に対し将来一切の交際を絶つべきこと、いわゆる村八分の決定をし、これを通告することは、それらの者をその集団社会における協同生活圏内から除外して孤立させ、それらの者のその圏内において享有する、他人と交際することについての自由とこれに伴う名誉とを阻害することの害悪を告知することに外ならないのであつて、それらの者に集団社会の平和を乱し、これに適応しない背徳不正不法等があつて、この通告に社会通念上正当視される理由があるときは格別しからざる限り、刑法第二二二条所定の脅迫罪の成立を免れないのである。そしてそれが脅迫罪となるには、地域を基本とする集団社会から、特定の一人又は数人を除外して孤立させることについて、多数者が意思を共通にして、その通告をすれば足りるのであつて、その集団社会の地域の広狭、居住者の多寡によつて、犯罪の成立が左右されるものではない。本件のような農林産部落あるいは隣保は、その地域は必ずしも広くはなく又居住者も多くはないが、その居住者による集団社会の交際関係は却つて緊密度が高く、このような関係から除外されることから受ける前記自由及び名誉に対する脅威は、より深いものがあるということができる。従つてこの協同生活圏内から除外する旨の通告が、少数者間に行われたということだけで、脅迫罪の成立を否定する理由とするには足らないのである。本件通告は、それに先立ち公会堂の役員会議の出席者間において、川上繁一ら五名の行つた仮処分執行に対する報復として、同人ら及びその家族を里組居住者の大部分を占める組合員との交際関係から除外すること、その通告には右五名の属する隣保内の役員又は隣保員らが共同して当ることに意見が一致し、その結果その各隣保員らによつて微温的言動によるとはいえ、共同して行われたもので、この中前記(二)の(イ)は隣保員のみならず、組合員全員の交際関係を絶つ趣旨その他は隣保内の交際関係を絶つ趣旨のものであつたこと前詳記のとおりである。そして右五名が前記仮処分の執行をしたからといつて、それを不正、不法として集団生活圏内から排除される理由はなく、右処置に対抗するには法的手段に訴える等の方策によるべきであるのに、これに対する報復として共同絶交を通告することは社会通念上正当であるとは認められない。従つて本件通告が脅迫罪を構成することはきわめて明らかであつて、通告の用語又は態度が微温的であつたからといつて、その成立を妨げるものではない。そして公会堂の役員会議に参加した被告人らは、右五名ら所属隣保の役員又は隣保員らが共同して各通告を実行することを共謀したのであり、各通告の実行に当らなくても、全部の共同通告行為に対し、共犯者としての責任があり、又その会議に参加しなくても、各通告に加担した被告人らはそれぞれの通告行為に対し、いずれも犯罪実行者としての責任があるものといわなければならない。これを法律に照せば、後者は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項の数人共同して刑法第二二二条の罪を犯した者に、前者はその共同正犯者に該当するのである。しかるに原判決が、公会堂における会合では、出席者の漠然とした話し合いがあつたに止まり、一致した意見として組合員を拘束するような申し合わせ又は決議が行われたことは認められず、その後においても各隣保においてその決議に基き、これに従う趣旨の申し合わせが行われたこともなく、従つて川上繁一ら五名に対するその所属隣保員による絶交の通告は、同人ら五名をその隣保の交際から除外する趣旨であつたものと認められ、このような近隣一〇軒位の者の間に行われた共同絶交の通告は、個人間の絶交通告と同様に、何ら罪とはならないとしたのは、事実を誤認し且つ法令の解釈適用を誤まつたものであり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三八二条、第三八〇条、第三九七条によつて原判決を破棄し、第四〇〇条但書に該当する場合と認めて更に裁判をする。

(罪となるべき事実)

兵庫県三原郡湊町里組山林管理組合は、組合員の福利を増進するためその共有山林を管理経営することを目的とし、里組(現在同郡西淡町字湊里)居住者の大部分である一〇三名をもつて組織し、被告人三野勝、同曽根由夫、同垣春蔵、同垣正一、同下村平八、同中村春一、同菅京一、同菊川岩一は同組合執行委員、同山川孝夫、同山中秋雄、同片山正雄、同山下秀吉、同進藤長一、同玉久保弘、同山本直七は各同組合部落班長、その余の被告人らはいずれも同組合員であつたところ、二町歩以上の自作山林を所有する組合員は、組合に対してその山林の松茸及び下草の採取権を無償提供すべき旨の総会の決議があつたのに、これに該当する組合員川上繁一、川上理一、竹口秀雄、垣長五郎及び前田稔はその決議に従わなかつたので、昭和二五年一二月及び昭和二六年二月に行われた組合の利益金等の分配を拒否されたため、同人らは同年五月神戸地方裁判所洲本支部に対し組合を相手として配当金等請求の訴を提起し、その訴訟係属中の昭和二七年九月一三日里組深谷所在の組合員共有の山林に対し、その地上松茸及び下草の中右五名の持分に応ずる分の処分を禁止する旨の仮処分命令の執行をしたので、その対策を協議するため、同夜里組所在の公会堂に、右組合の執行委員及び部落班長による会議が開かれ、被告人三野勝、同曽根由夫、同垣春蔵、同垣正一、同下村平八、同中村春一、同菅京一、同菊川岩一、同山中秋雄、同片山正雄、同山下秀吉、同進藤長一、同玉久保弘、同山本直七は他の約三名の者とともに出席し、右五名らの処置に対する報復として同人らを制裁する意図のもとに、同人ら及びその家族とは、組合員は以後一切の交際を絶つべきこと、各役員は組合員に対しこれを通知して賛同を得ること、右五人らの所属する各部落では、同人らに対し役員又は部落員が共同してこれを通告することの協議がととのい、もつて右五人らの家族に対し、いわゆる村八分の通告することを共謀し、その結果

一、被告人垣春蔵及び同山川孝夫は空所部落に属していたが、翌一四日夕川上繁一及び川上理一を含む部落員のほとんど全員を同所の地蔵堂に参集させ、その席上繁一及び理一の両名に対し、同時に「組合の意思により組合員全部女子供まで、今後ものを言わないし、交際を遠慮させてもらう」といつて、組合員全員の共同絶交を通告し、

二、被告人玉久保弘、同川西重貞及び同村上正治は中オ部落に属していたが、前同日同部落員竹口秀雄方付近路上に、他の班員とともに集まり、竹口秀雄に対し同人及びその家族とは隣保の交際を絶つ旨を通告することを相談した上、同人方においてその息純太郎の妻竹口としみに対し、その旨を通告し、同日同女をして秀雄にこれを伝達させ、

三、被告人山本直七、同黒田茂与吉、同菊川政一は地蔵部落に属し、同月一五日被告人直七の指示により、同茂与吉及び同政一を含む班員が、同所地蔵堂に集まり、同部落の前田稔及びその家族に対し隣保の交際を絶つことを協議し全員賛同の上、同道して同人方へ行き、同人に対しその旨の通告をし、

四、被告人山下秀雄、同垣正一、同山下丈平は山の口部落に居住し、被告人秀雄は班員に対し、部落員共同使用の籾摺機掃除の機会を利用して、同部落の垣長五郎に対し、前同様の通告をすべきことをはかつて同意を得た上、同月一六日同部落の垣輝一方に右籾摺機掃除のため右各被告人ら及び外数名の班員らが集合した際、垣長五郎に対し前同様の通告をし、

もつて数人共同して川上繁一ら前記五名の里組内又は里組の右各部落内における交際の自由及びこれに伴う名誉に対しそれぞれ脅威を与えて脅迫したものである。

(証拠の標目)

一、兵庫県三原郡湊町里組山林管理組合規約謄本

一、配当金等請求事件訴状及び同判決各謄本

一、押収にかかる湊町里組山林組合会議録及び同議事録(昭和三〇年領置第五九二号の二、三)

一、仮処分決定謄本

一、土地登記簿謄本(記録一三八四丁ないし一五六一丁)

一、原審及び当審の各検証調書

一、川野計郎の検察官に対する供述調書

一、証人川野利夫の原審第五回公判における供述調書

一、菅由吉に対する原審の証人尋問調書

一、被告人垣春蔵、垣正一、山本直七、片山正雄、山中秋雄、山下秀吉の各検察官に対する供述調書

一、川上繁一、川上理一、川上喜一郎、川上忠雄、藤村一郎、川上武夫に対する原審の各証人尋問調書

一、川上喜一郎の検察官に対する供述調書

一、竹口としみ、竹口純太郎、平井亨、曽根敏治、垣本重治、玉久保栄太郎に対する原審の各証人尋問調書

一、垣本重治、曽根敏治、平井亨の各検察官に対する供述調書

一、原審第四回公判調書中証人竹口秀雄の供述調書

一、被告人玉久保弘の検察官に対する供述調書(同被告人のみに対する証拠)

一、被告人川西重貞及び同村上正治の各検察官に対する供述調書

一、原審第三回公判調書中証人前田稔の供述調書

一、進藤茂夫、進藤茂に対する原審の証人尋問調書

一、被告人山本直七の検察官に対する各供述調書

一、垣長五郎、原口義雄、山本虎七に対する原審の各証人尋問調書

一、垣輝一の検察官に対する供述調書

一、被告人山下秀夫、山下丈平の検察官に対する各供述調書

一、当審の川野利夫、山川良枝に対する各証人尋問調書

(法令の適用)

暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項(刑法第二二二条第一項)罰金等臨時措置法第三条

判示一につき刑法第五四条第一項前段第一〇条

被告人山川孝夫、川西重貞、村上正治、黒田原与吉、菊川政一、山下丈平を除くその余の被告人らに対し各刑法第六〇条第四五条前段併合罪加重につき懲役刑の各被告人に対し同法第四七条第一〇条、罰金刑の各被告人に対し同法第四八条第二項、労役場留置につき同法第一八条、執行猶予につき同法第二五条第一項、訴訟費用負担につき刑事訴訟法第一八一条、第一八二条、なお本件通告には違法性がないとする弁護人の主張の採用できないことは前記のとおりである。

(情状)

本件組合はその成立以来業績を挙げ組合員の福利増進に寄与したこと、今後もなお寄与することが期待されることがうかがわれること。川上繁一ら五名の申請の仮処分事件の標示に立入禁止の文字があり、組合員らが現場に掲げられたその標示を見て、仮処分命令の内容について誤つて過大に評価し、その結果公会堂における会議において共同絶交の意見に一致するに至つた情況が認められること。各通告の際の用語、態度等はむしろ微温的で強圧的ではなかつたこと。

本件以後組合員と右五名との間に和解が成立し、現在は旧状に復し円満に交際が行われていること、今後も同様であることが望ましいこと。各被告人間においては、組合における指導的地位にあると否と、公会堂の会議における役割及び各通行の際の地位役割を比較し責任の軽重を定めるのを相当とすること。

等諸般の点を考慮し、被告人らを各主文の刑に処し、いずれもその刑の執行を猶予することとする。

(裁判長判事 万歳規矩楼 判事 武田清好 判事 小川武夫)

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